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LT城西

新建築。2017年8月号に掲載

2018-03-27

新建築。2017年8月号より、そのまま転載させて頂きました。

パブリックとプライベートの関係性を変える

名古屋市内に建シェアハウスで、南側に立てられた既存棟と同じ施主による2棟目である。

1棟目はシェアハウスのプロトタイプを模索する建ち方が提案されたが、

今回は場所性を意識した空間性の追求を試みた。

シェアハウスはパブリックとプライベートが明確に分かれていることが多い。
街というパブリック空間に対しては閉じ、内側にのみ濃厚なコミュニティー空間がある。そして、
その内部のコミュニティー空間は人が集まる共有部と、ひとりになれる閉じた個室で構成される。
このパブリックとプライベートが明確に分けられた空間に自由度は少ない。
プライベート空間にもパブリックが感じられる場があることが、生活の自由さを生むと考えている。
まず、街というパブリック空間へ開いている。

一棟目の入居者数は十三人であったが、二棟目は二十一人に増えるため、生活感がない大きな箱をつくると街に圧迫感を与え、
シェアハウスの生活が見えないことが地域住民を不安にする。

掲載雑誌。新建築2017年8月号。

掲載雑誌。新建築2017年8月号。

そこで個室を雁行配置し、小さな庭を周囲に分散させ、個人の生活が街と少しだけ接点を持つようにしている。
分割したボリュームには周辺住宅と同じような勾配を付け、
小さな住宅が集合して建っているような佇まいで街のスケール感を連続させた。

また裏の一棟目を裏庭を2棟目で挟み込み、双方の中庭としている。
1棟目の住民のライフスタイルを調査すると生活時間帯はバラバラで、裏庭は積極的に使われていなかった。
かといって庭や互いの建物への接続性を強めようと窓を向き合わせたり、
ガラス張りにすると視線が気になり、居心地が悪い。

平面に凹凸をつけ、共有する畑を設け、LT城西の住人も2の浴室を使えるようにして、
ほどよい距離感を保ち、自然な交流が生まれるように考えた。

次に共用部における個人の居場所をつくった。
内部は人が集まる楽しさと、ひとりになれる安堵感の両方を実現するため、
分割された切妻屋根をそのまま内部で勾配天井とし、高さを活かした「開放的な共用部」と、
低く抑えられた「落ち着きのある個室」をつくり出した。

その両方を繋ぐ中間的な領域には、
他人の存在を感じながらひとりでいられる場所(スタディコーナー、ラウンジ、腰掛け手すり)や、
共有部に個人の所有物が溢れることを促す装置(可動棚)が必要と考えた。

また外部では、個室の前庭と共有部としての中庭が曖昧に繋がることで、
外部空間にも選択性を与え、多様な活動を受け止められるようにした。

職住が分離し、応接間が消えた今、住宅はプライベート空間のみになりつつあるが、
パブリックとプライベートを内包するシェアハウスは街に開ける可能性がある。

今回はパブリック空間に個人の生活を染み出させようと試みたが、
今後はシェアハウスにカフェを併設したり、地域住民も憩える庭をつくるなど、
プライベート空間をいかにパブリックな場と接続させるか、
その展開を考えたい。(諸江一紀、鈴木宗真

 

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