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LT城西

シェアハウスにはさまざまな手法が生まれている:TOTO通信

2017-09-19

今、D-FLATを取材して頂いた案件(文章)を整理しています。

TOTO通信。大企業らしい、しっかりした内容の濃い雑誌です。

取材・文:豊田正弘。以下、転載。

名古屋駅からタクシーに乗って5分ほど、小さなオフィスも混じる下町的な住宅地に「LT城西」は立っていた。

駐車場の奥にある矩形のファサードは、周囲の2階建て住宅より少し大きい不思議なスケール。

うがたれた大小2種類の窓は、内包する2.5層の空間を素直に表現している。

休日の朝10時、右手脇のエントランスを入ると、静寂な空気のなか、住人の女性が焼くチョコレートクッキーの甘い香りが漂ってきた。
建て主と設計と運営のチームワーク

設計者の猪熊純さん、成瀬友梨さんは、最も積極的にシェアハウスの提案や発言を続けている建築家のひと組。

2階リビングのラグに座って、成瀬さんのお話をうかがう。
建て主さんはまず、「共に暮らすことのできる若い方々に良好な住環境を提供したい」と考えたそうだ。

最初から合理的な形でつくろうと思ったため、インターネットで成瀬・猪熊建築設計事務所を発見し、プロジェクトがスタートする。

ホームページ「LT城西へようこそ」(http://lt-josai.com/)は驚くほど充実した内容で、その情熱がよく伝わってくる。

高断熱・高気密の仕様、無垢材のフローリングや顕熱交換器の採用などは、建て主さんからの要求によるものだ。
「私たちはコストの試算を始めると同時に、『運営者がいないとシェアハウスはできないですよ』と建て主さんに伝えていました。

すると2、3カ月後、名古屋の大家さんが集まる会で、運営会社デクーンの奥村秀喜さんを見つけたと聞きました。

彼のシェアハウスも見せてもらい、一緒にやりましょうとなりました。早い時期から運営者が決まって、相談しながら進められたのはとてもよかったと思います。

設計者と運営者の関係で大切なのは、やはりコミュニケーションです。どういうことを目指しているのかを、とことん打ち合わせていくことがだいじなんですね」
「奥村さんの運営経験から、たとえばキッチンや洗面所や下駄箱のひとり分の収納量などを決めました。でも設計途中で、当初の想定と違うところは出てきます。

お弁当をつくる人が多くなりそうで、冷凍庫の数を増やしたいとか。そんなときに、建て主さんも含め、

私たちは新しいことをやっているチームなんだという思いが共有できていれば、みんなで考えて臨機応変に対処できる。

クレームのやりとりではなく、お互いに知恵を出して解決策を探せる。その信頼関係をつくるのは、ここに限らず重要なことだと思います」

個室と共用部の繋がりをデザインする

「LT城西」は、13の個室とリビング・水まわりなどの共用部をもつ、まだ珍しい新築のシェアハウスだ。

そしてその空間は、3640㎜グリッドの平面、2.5層の断面からなるきわめて特徴的なもの。

木造2階建てという条件のなかで、経済的なスパンにより最大限の容積を確保している。0.5層分の高さは、1階・2階リビングの吹抜け、

ふたつの個室の天井高などに生かされ、また2.5階の個室に至る「距離」をつくる。それは高度なパズルを解いて得られたプロトタイプのように見えてくる。
「シェアハウスの主流はリノベーションですから、ここでは建築家によるプロトタイプを実際につくりたかった。

新築にしかできない、シェアハウスに本当に適した建築とするのが目標でした。それは個室と共用部のつながり方のデザインです。

部屋によって共用部との距離が違えば、選択性もあるし快適なはず。キッチンで料理をしている人もいれば、

リビングでテレビを見ている人、2階で本を読んでいる人もいる。人と一緒にいることを強要するような共用部は息苦しいから、

好き勝手に使えるような関係性にしたい。そこでできるだけボリュームを大きくとって、天井高が変化し、つながると同時に区切られている空間をつくりました」
実際、その共用部に身を置くと、ひとつの大きな屋根の下にたたずむ安らぎと、空間の質が徐々に移ろっていく心地よさを感じる。

それは、個室のドアが直接見えることなく、奥まったところにあるのも大きな要因となっているようだ。
「個室の前にある小さいアルコーブ空間は重要です。共用部に面してドアが直接開くとしたら、プライバシーも保てません。

そこに視線のクッションを入れました。入居者にも好評です。それぞれがひとりになりたいときはなれるし、一緒にいるときは楽しくやれるというのをすごく考えました」
「共用部で人とソーシャルに交わるには、自分の居場所が確保されていることが重要です。個室はホッとできるところであってほしい。

東京のシェアハウスでは6畳から6.5畳くらいの個室が多いですが、物を置きたいという要望や名古屋の住宅事情も考えて、8畳のスペースをとりました。

部屋を見せてもらうと、みんなおしゃれに住んでいます」

共に住まうためのルール

運営管理を行うデクーンは、名古屋ですでに3軒のシェアハウスを手がけ、運営の委託は今回が初めてという。

最終的に男性4人、女性9人の入居が決まっているが、どのような基準で入居審査をされたのか。代表の奥村さんにお話をうかがう。
「何人かで一緒に暮らすから、うまく会話ができる方、会話を楽しめる方を選びます。年齢の下限を設けて学生は断りましたが、ひたすら人物本位で、3時間くらいの面接をする。

私と、社員である私の娘がOKすればいいと考えています。結果的には20代後半から30歳までと、年齢の近い方々になりました」
シェアハウスの共用部は、フォーマルとカジュアルの線引きが難しい場所のように感じられる。そこでの振る舞いにはどんなルールがあるのだろう。
「私たちの場合、竣工から少しずつ入居してもらうので、最初の2カ月くらいは娘が一緒に住みます。そこでたとえば、テレビのボリュームは『25』でなく『23』まで、

シャワーブースでは落ちた髪の毛は指でつまんで捨てて、出るときにはシャワーでザッと流してね、とか具体的にリードしていく。

ルール集をつくっても誰も読まないから(笑)。最初の2~3人の入居者でコミュニティの雰囲気は決まってしまうし、後で修正は効かないんですよ」
「女性はスッピンだし、みんな部屋着でゴロゴロしてテレビを見ている。でもひとり暮らしだとヨレヨレのものを着ていても、

ここでは気が引けるからちょっと上質なものを、となります。おしゃれな人が多い分、下駄箱の大きさがちょっと足りなかったという反省はありますが」

シェアハウスでの暮らしぶり

お会いした住人の女性ふたりは、明るくアクティブな印象。実際の生活についてお話を聞いた。
「個室にいるのは、寝ている時間くらい。みんなの時間がずれていて、それほど人と会わない。全員が揃うことはほとんどありません。

朝食の時間帯もバラバラで、料理をしない男性もいる。

シャワーも、帰ってすぐに使う人、寝る直前に使う人、朝に使う人と分かれていて、混みあうことはほとんどありません」
「以前のワンルームマンションはさびしかった。出かけるときに『行ってらっしゃい』と言われたり、帰るとあかりが見えるのはうれしい。

みんながいるところに帰ってくるのは安心です」
「もっとドライな感じかと思ったら、みんな打ち解けるのは早かった。

個室にいると料理をつくる音が気になることもあるけれど、生活ができているから大丈夫」

法規の判断を巡って

2013年9月、国土交通省は、異常に小さな居室を詰め込んだ、いわゆる「脱法シェアハウス」への対策として、

シェアハウスは建築基準法上の「寄宿舎」に該当するという技術的助言を発表した。

その判断によれば、多くのシェアハウスは違反となる。最後に成瀬さんの意見を聞いてみよう。
「新築なら『寄宿舎』でいいと思いますが、リノベーションの場合、きちんと運営され、入居者同士のコミュニケーションがとれているシェアハウスなら、

一般の住宅と安全性に差があるとは考えられません。悪質な業者を取り締まるための苦渋の判断だったとは思いますが、

もっと精度の高いルールの設定はないのか、考えていきたいところです」
「今回はシェアハウスについてでしたが、ほかへの影響も心配しています。たとえば今、団塊の世代がリタイアする時期になって、

彼らの住宅ストックをどう地域に開いていくかというさまざまなアイデアが出てきています。

若者に上階に住んでもらうとか、一部をコミュニティカフェにするとか。

こういった新しい利用方法を考えていく場合、前例がないので建築関連の法規と戦うこともしばしばです。

ルールは必要ですが、新しい取り組みをどんどん起こしていくためには、安全性は確保しつつも、

ある程度自由度をもたせ、対話しながらつくっていくという姿勢が必要だと思います」
当日はうかがうと間もなく、2.5階の一室に入居する方の引っ越しが始まった。

いささか慌ただしく場所を移動しながら撮影と取材を行ったが、帰るときにはまた穏やかな空気が戻っていた。

このゆったりした共用空間は、多様なアクティビティをこともなげに受けとめているように見える。

しかしそれは、「LT城西」にかかわる多くの人たちによる、繊細なすりあわせを経てもたらされたものなのだ。


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